750kmを越えて盛岡へ。ジャズ喫茶「ダンテ」で店主に怒鳴られた日

「音」と言うな、「音楽」を読め!植草甚一が結ぶ縁  

1. 弾丸盛岡行:新幹線での驚愕の事実

  「男の隠れ家」で紹介されていた盛岡のジャズ喫茶**「ダンテ」**。この魅力に抗えず、はるばる行くことに決めました。 最初は車で750kmをのんびり行くつもりでしたが、用事が重なり前泊できず、急遽新幹線移動に。北陸新幹線、上越新幹線、東北新幹線を乗り継ぐ大移動です。 乗り換えの待ち時間が長く、いつもは車で行きたがる私の「新幹線嫌い」が顔を出しかけましたが、大宮からの移動に度肝を抜かれました。 大宮から盛岡まで、たった2時間! 仙台までは1時間10分。平均速度250km/hのスピードは心地よく、関東圏にとって仙台は完全に通勤圏内だと実感しました。  

2. やっとたどり着いた聖地と、最初の拒絶

  自宅近くの駅を5:30に出発し、盛岡に到着したのは13:30。用事を済ませ、税込み朝食付き4,500円という格安ホテルにチェックインして、いざ「ダンテ」へ。 小さなビルの2階に店を見つけ、入ると店主が一人。 席に着くと、反射的に**「ビール」**を注文しました。(雑誌には置いてあると書いてあったのですが…) 店主から返ってきたのは、短く厳しい**「無い」**の一言。 仕方なく「コーヒー」を注文。他にお客もおらず、店内はレコードの音だけが響く静寂な空間です。  

3. 5,000円札が引き起こした「店主との問答」

  居心地の悪さと退屈さで20分ほどで出ようとレジへ向かい、小銭がなかったので5,000円札を出しました。 店主:「おつりがないから小銭あるだけでいい」 慌てて財布を探し、400円を渡しました。そして、場を和ませようと、つい余計な一言を口にしてしまいました。 私:「レコード、良い音してますね」 店主は鋭く、まるで禅問答のように怒鳴りました。 店主:「音音と言うな!音楽がどうかだろ!みんな音音と言う」 私:「はい…」  

4. 植草甚一に繋がれた縁と「音楽を読め」の教え

  私の出身地を聞いた店主は、金沢という遠方からの客に驚いたのでしょう。「まー座れ」と促され、二人で一つのテーブルでコーヒーを飲むことになりました。 私が「自分の披露宴にMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の武道館ライブのレコードを使ったんです」「昔より最近の演奏の方が好きなんです」と話すと、店主はさらに深い教えを授けてくれました。 店主:「昔とか最近とかじゃない。そのコンサートの前後の曲や、過去の演奏に対してどう味付けしているかまで読まないとだめだ!」 長年ジャズを聴いて、同じ曲のレコードやCDを何枚も集めていた私にとって、それは目から鱗が落ちる言葉でした。「そんな意味があったのか」と。 そして店主は、「植草甚一の本を読め。この人は良い解説をしている」と教えてくれました。 簡単な会話でしたが、このジャズ喫茶の店主は、音楽を愛する者への厳しい指導者であり、その奥深さを教えてくれる求道者のようでした。  

5. 賢治の心象風景に触れる旅の終わり

  ようやく解放されて店を出ると、外は寒かったです。 店のすぐ横には、賢治、啄木青春館という建物がありました。そこで、宮沢賢治の有名な一節「ヒョウトテキテケンジャ(ひょうをとってきて賢治)」を思い出しました。妹が亡くなる直前に、熱で意識が朦朧としながらも降ってきた雹をとってきてくれと願った、あの純粋な心象風景です。 遠く750kmを越えて、盛岡のジャズ喫茶で受けた音楽の洗礼と、宮沢賢治の故郷の静寂。体は疲れましたが、心が満たされた、満足のいく旅となりました。

6. 「賢治、啄木青春館」の余韻と居酒屋へ

  ジャズ喫茶「ダンテ」での緊張感あふれる体験と、その隣にあった「賢治、啄木青春館」(手ぶれ写真ですが、記念です)の文学的な空気に触れた後、私はタクシーで駅前のホテルへ戻りました。 落ち着いたところで、次は盛岡の夜を楽しむ時間です。ホテルの1階にあった居酒屋へ入りました。 店内には東北美人のお姉さんが店員として働いていました。 私が何気なく「アルバイト?」と聞くと、そのお姉さんはとても嬉しそうな笑顔で「先月、社員になりました!」と答えてくれました。正社員になれた喜びが全身から溢れているようで、私まで温かい気持ちになりました。よかった、よかった。  

7. 岩手県は日本酒天国だった

  焼き鳥や枝豆などをつまみながら、まずはビールを2杯。体が温まってきたところで、地元の日本酒へシフトしました。 メニューを開くと、その種類の多さに驚きました。盛岡(岩手県)は、こんなにも日本酒が豊富な県だったのかと。 好奇心から、銘柄を一つひとつ選んで「一合ずつ」注文してみます。
  • 最初の一杯:フルーティーで、米と麹の味がしっかりと感じられる濃厚なタイプ。
  • 次の挑戦:鋭い辛口。キレがありつつも、米の旨味も残るバランスの良い味わい。
  • さらに次の挑戦:…
何種類も飲み比べ、それぞれの個性を堪能しました。私が特に感じたのは、岩手の日本酒は「味が濃くてうまい」ということです。 以前から慣れ親しんでいる新潟の、透明感があり水のようにすっきりとした日本酒とはまた違う、「米の旨味がギュッと詰まった」濃厚な満足感がありました。一人で4,500円も使ってしまいましたが、それだけの価値ある日本酒との出会いに大満足です。  

8. 旅の終わりは、再び「速さ」で

  大満足の夜を過ごし、ホテルでぐっすり熟睡。朝11時までのんびり過ごした後、旅のフィナーレです。 11:41発の新幹線で大宮へ。 ジャズ、文学、そして地元の美酒。750kmを越えた盛岡の旅は、短いながらも濃密な経験を与えてくれました。次はいつ来られるか分かりませんが、この満たされた気持ちで、また日常の仕事に戻りたいと思います。
盛岡駅です。

9. 東北新幹線「はやて・こまち」の連結美

  盛岡からは、大宮行きの東北新幹線「はやて」に乗車しました。この新幹線は、秋田新幹線の「こまち」と連結して走る姿が特徴的で、その姿はなかなか壮観です。 東北地方のカラッとした晴天の景色を眺めながらの移動は、非常に快適でした。 そして、この高速移動の時間を使って、私はあるアイデアを考えていました。それは、「入れ歯の撮影方法」の設計です。私は歯科技工士ではありませんが、移動中の集中できる環境が、新たなアイデアを生み出すのに最適だったのです。  

10. 驚異の平均速度と、楽な帰路

  大宮に到着するまでの間に、設計は完了しました。 その後、大宮から上越新幹線、越後湯沢からは北陸新幹線「はくたか」に乗り継ぎ、無事に金沢駅に到着しました。  
富山県で日本海に日が沈むところです。
車で来ていたら今頃は新潟あたりで北陸道を走っているだろうな、と思いを馳せましたが、改めて電車の移動の「楽さ」を実感するのは、やはりこの帰り道です。 結果として、約1,000kmの道のりを6時間で帰宅しました。計算すると、平均速度は167km/hです。これは、自分で車を運転して移動するよりも圧倒的に速いスピードです。

11. ドウダンツツジの紅葉と「変な旅」の余韻

  自宅に帰り、旅の疲れを癒やしていると、玄関前のドウダンツツジが美しく紅葉しているのが目に入りました。(写真に収めました。) ジャズ喫茶での哲学的な問答、東北美人が働く居酒屋での日本酒飲み比べ、そして新幹線車内での技術的な設計。